竿すゞし土用干
油繪の遠目にくもる五月かな
灌佛やうぶ湯の桶に波もなし
甲斐の雲駿河の雲や不二詣
涼めとて床几もて來る涼み哉
袂には鼻紙もなし更衣
御祓して歸るたもとに螢かな
月の出る裏へ/\と鵜舟哉
さをとめの泥をおとせば足輕し
空に入る身は輕げなりふし詣

【傾城の文書くかたに】
夏痩を見せまゐらせ度候かしく

夏 天文 地理

大粒になつてはれけり五月雨
一ツ家の背に
一枝は田にはしりこむ清水哉
[#「一ツ家の背に」は「一枝は田に」の右側に注記するような形で]
夕立や足たてかぬるめくら馬
梯や水にもおちず五月雨 改(梯や水より上を五月雨)
[#「(梯や水より上を五月雨)」は「改」の下にポイントを下げて2行で、カッコはその2行を括る形で]
五月雨や隅田を落す筏舟
一村は卯つ木も見えす青嵐
ふしつくは都ふきこす青嵐
はたごやに蠅うつ客や五月雨 渭橋の句に たれこめて蠅うつのみそ五月雨
[#「渭橋の句に たれこめて蠅うつのみそ五月雨」は「はたごやに蠅うつ客や五月雨」の下にポイントを下げて2行で]
眞黒に茄子ひかるや夏の月
夕立の露ころげあふ蓮哉
蚤蠅の里かけぬけて夏の山
おしあふてくる萍や五月晴
夕立の押へ付けたり茶の煙
ゆふだちにはりあふ宮の太鼓哉
木曾川に信濃の入梅の濁り哉
夏の月四條五條の夜半過
鱗ちる雜魚場のあとや夏の月
荷を揚る拍子ふけたり夏の月

【高濱延齡舘ニテ】
雪の間に小富士の風の薫りけり
はらわたにひやつく木曾の清水哉
菅笠の紐ぬらしたる清水哉
夕立に簔のいきたる筏かな
       まくるイ
夕立の見る/\過る白帆哉
[#「まくるイ」は「過る」の右側に注記するような形で]
君か代や親が所望の夏氷
夕立のはづれに青し安房上總 文字結 青[#「文字結 青」はポイントを下げる]
旅人の名をつけて行く清水かな

【呈破蕉先生】
夏草や君わけ行けば風薫る
夏の月紙帳の皺も浪と見よ
入梅晴の朝より高し雲の峰
横道を行けば果して清水哉
五月雨は藜の色を時雨けり
わびしさや藜にかゝる夏の月
むさしのや川上遠き雲の峯
夕立や算木崩れし卜屋算
山へ來て繪嶋近し青嵐
白芥のうしろの原や青嵐
そよ/\と山伏ふくや青嵐
梅雨晴の風に戻りし柳哉
夕立や板屋に崩す一あらし
一筋に烟草けぶるや青嵐
なか/\に裸急がず夏の雨
負ふた子の一人ぬれけり夏の雨
夕立や蛇の目の傘は思ひもの
五月雨や流しに青む苔の花
夕立や干したる衣の裏表
植ゑつけて月にわたせし青田哉

【松山】
城山の浮み上るや青嵐
踏みならす橘橋や風かをる
夕立や橋の下なる笑ひ聲
梅雨晴にさはるものなし一本木
五月雨や漁婦《タヽ》ぬれて行くかゝえ帶
掬ぶ手の甲に冷えつく清水哉
五月雨は杉にかたよる上野哉
金時も熊も來てのむ清水哉
五月雨に一筋白き幟かな
長靴のたけに餘るや梅雨の泥
鼓鳴る芝山内や五月晴
夕立をもみくづしけり卜屋算
五月雨にいよ/\青し木曾の川
五月雨の雲やちぎれてほとゝきす
谷底に見あげて涼し雲の峰
暮れかけて又日のさすや五月雨
野の道に撫子咲きぬ雲の峰
夕立に鷺の動かぬ青田かな
雲の峰に扇をかざす野中哉
むさし野に立ち並びけり雲の峰
夕立に古井の苔の匂ひかな
梅雨晴や朝日にけぶる杉の杜

【根岸】
五月雨やけふも上野を見てくらす

【六月十九日】
五月雨に御幸を拜む晴間哉

【送別】
招く手の裏を汐風かをりけり

夏 動物

時鳥上野をもとる※[#「※」は「さんずい+氣」、第4水準2−79−6、79−11]車の音
夕くれにのそ/\出たり蟇
ころがつて腹を見せたる鹿子哉
手の内に螢つめたき光かな
時鳥千本卒塔婆宵月夜
聞に出てぬれてもとるや閑古鳥
ちゞまれば廣き天地ぞ蝸牛

【待戀】
蚤と蚊に一夜やせたる思ひ哉
藺の花の中をぬひ/\螢哉
あとはかりあつて消けりなめくしり
世の中をまひ/\丸うまはりけり
菅笠の生國名のれほとゝきす
露となり螢となりて消にけり
浮世への筧一すぢ閑子鳥
どの村へかよふ筧そ閑子鳥
[#「浮世へ」と「どの村へ」の句の上には、この二つの句を括る波括弧あり]
すめはすむ人もありけり閑子鳥
並松やそれからそれへ閑子鳥
垣こえて雨戸をたゝくくゐな哉

【根岸】
水鷄叩き鼠答へて夜は明ぬ
谷間や屋根飛こゆるほとゝきす
鵜の首の蛇とも見えて恐ろしき
ある時は叩きそこなふ水鷄哉
一つ家を毎晩たゝく水※[#「※」は「奚+隹」、第3水準1−93−66、81−5]哉

【待戀】
我※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、81−7]を蚊にくはせたる思ひかな
蚊の聲の中に子の泣く伏屋哉
親の血を吸てとぶ蚊のにくさ哉
蚊の聲を分て出たり蟇
初蝉の聲ひきたらぬ夕日哉
雨の夜や浮巣めくりて鳰の啼

【破蕉先生の咄を夫人よりきゝて】
筆もつて寐たるあるじや
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