椿かな
海棠や檐に鸚鵡の宙がへり
一輪の牡丹咲きたる小庭哉
桃さくや三寸程の上り鮎

【梅見の記の後に題す】
鶯やとなりつたひに梅の花
紫の水も蜘手に杜若
瓜小屋にひとり肌ぬぐ月夜哉
稻妻にひらりと桐の一葉哉
散りやすきものから吹くや秋の風
稻妻にうち消されけり三日の月
朝顏にわれ恙なきあした哉
ほの/″\に朝顏見るや※[#「※」は「巾へん+「厨」の「がんだれ」のかわりに「まだれ」をあてたもの」、21−12]一重
朝顏や我筆先に花も咲け
夕暮に朝顏の葉のならびけり
朝顏や氣儘に咲いておもしろき
朝顏や夢裡の美人は消えて行く
その鐘をわれに撞かせよ秋の暮
遊ぶ子のひとり歸るや秋のくれ
魂祭ふわ/\と來る秋の蝶
水流れ芒招くやされかうべ
月落ちて灯のあるかたや小夜砧
名月や角田川原に吾一人
名月や美人の顏の片あかり
名月やともし火白く犬黒し
湖やともし火消えて月一ツ
明月は瀬田から膳所へ流れけり

【三井寺】
我宿にはいりさう也昇る月
凩や迷ひ子探す鉦の音
[#改頁]

明治廿四年辛卯年(紀元二千五百五十一年)

〔廿四年 春〕

うそ/\と蝨はひけり菴の春
元朝や虚空暗く只不二許り
のら者もあつてめでたし御代の春
猫の顏もみがきあげたり玉の春
初空や烏は黒く富士白し
紅梅は娘たのんで折らせけり
紅梅や翠簾のすき影衣の音
紅梅や垣をへだてゝ娘同士
梅さくや藁屋四五軒犬の聲
紅梅はまばら也けり窓の影
水鳥のつゝき出したる根芹哉
制札にちりかゝりけり山櫻

【植半】
八重櫻咲きけり芋に蜆汁
蓮花草我も一度は小供なり
草籠をおいて人なし春の山
兩側の竹藪長し赤椿
馬の背に手を出して見る椿哉
一むねは花にうもるや赤椿
女にも生れて見たし花菫

【行脚の笠に題す】
道づれは胡蝶をたのむ旅路哉

【回文】
松の戸や春を薫るは宿の妻
白魚や氷の中に生れけむ
神代より誰か教へて猫の戀
哥よまばやさしかるべきに猫の戀
戀猫はあらきこゑさへあはれなり
内でなけば外でもなくやうかれ猫

【古白よりある人の聟養子に行きたることをいひおこせし返しに】

【小糠三合あれはとは昔語りに殘りたれとこれは又打て變つて聟殿の權柄】
淺ましやもらふた日より猫の戀
あとさきもしらぬ心や花に鳥
二三日はちりさかりけり山さくら
花ちるや寂然として石佛
あくびした口に花ちる日永哉
ならんたる鳥居の赤し山櫻

【品川
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