てや蕃椒
あき家に一畝赤し唐からし
唐辛子おろかな色はなかりけり
蕃椒横むいたのはなかりけり
行秋やつられてさがる唐辛子

【待戀】
唐辛子かんで待つ夜の恨哉
いつしかにくひ習ひけり蕃椒
はらわたに通りて赤し蕃椒
兼好に歌をよません唐辛子
煙にも更にすゝけず唐からし
唐辛子赤き穗先をそろへけり
盆栽の數に入りけり蕃椒
西瓜さへ表は青し蕃椒
草子にも書きもらしけり蕃椒
蕃椒心ありける浮世かな
蕃椒やゝひんまがつて猶からし
束髮の人にくはせん唐辛子
萩薄月に重なる夕かな
月の中に一本高し女郎花
世の中を赤うばかすや唐辛子
唐辛子日に/\秋の恐ろしき
唐辛子殘る暑さをほのめかす
乞食の薄をつかむ寐覺哉
桐一葉笠にかぶるや石地藏
藤袴笠は何笠桔梗笠
蘇東坡の笠やつくらん竹の春
萩薄小町が笠は破れけり
はり/\と木の實ふる也檜木笠

【古白剃髮】
蓮の實を探つて見れば坊主哉
笠賣の笠ぬらしけり萩の露
笠一ツ動いて行くや木賊刈
笠いくつ蘆の穗つたひ廻りけり
笠塚の笠を根にしてはせを哉
笠賣とならんで出たり薄賣
歌もなし朱印さひしき西瓜哉
送火の灰の上なり桐一葉

【画賛】
からぐろの黒からず茄子の濃紫
鉢植の松にも蔦の紅葉かな
        月夜
里芋の娵入したる都かな
[#「月夜」は「都」の右側に注記するような形で]
蕣や鉢に植ゑても同じ事
くりぬいて中へはいらん種ふくべ
蕣の地をはひわたる明家哉
種ふくべ何の力にくびれけん
萩の花思ふ通りにたわみけり
乞食小屋の留守にちりこむ柳哉
乞食のめんつうを干す木槿哉
乞食のぬる野は花と成にけり
水結 さら/\と水こす荻の下葉哉 千那ノ句 秋風や荻のりこえて水の音[#「水結」は上部に出ている]
[#「千那ノ句 秋風や荻のりこえて水の音」は「さら/\と水こす荻の下葉哉」の下にポイントを下げて2行で]
 〃 濱荻や水氣はなれし畑の中[#「〃」は上部に出ている]
 〃 水門に荻をすひこむ流れ哉[#「〃」は上部に出ている]

【大磯へ行く途上】
堀割になれてうつむく薄哉
堀割に風のうつむく薄哉
[#「堀割になれて」と「堀割に風の」の句の上には、この二つの句を括る波括弧あり]
むさし野は稻よりのぼる朝日哉
夕日さす山段※[#「※」は「二の字点」、第3水準1−2−22、142−15]の晩稻哉
何のかのうき名をすてゝ野菊哉
百姓の秋はうつくし葉鷄
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