鹿思ひ/\の足場かな
盜みぐひしてさへ鹿の痩せにけり
背戸へ來て鍋ふみかへす男鹿哉
神殿や鏡に向ふ鹿のふり
松に身をすつて鳴けり雨の鹿
鹿の首ねぢれて細き月夜かな
月の雁蘆ちる中へ下しけり
鮎澁ていよ/\石に似たりけり 乙州の句に 鮎さひて石となりたる川瀬哉
[#「乙州の句に 鮎さひて石となりたる川瀬哉」は「鮎澁ていよ/\石に似たりけり」の下にポイントを下げて2行で]
宮嶋や干汐にたてる月の鹿
雁いくつ一手は月を渡りけり
掛茶屋の灰はつめたしきり/\す
白露の中に乞食の鼾かな
菅笠に螽わけゆく野路哉
壁の笠とれは秋の蚊あらはるゝ
笠について一里は來たり秋の蠅
捨笠をうてばだまるやきり/\す
蜻蛉の中ゆく旅の小笠哉
鱸さげて簔笠の人通りけり
秋の蝶長柄の傘に宿りけり
下し來る雁の中也笠いくつ
旅人の笠追へけり赤蜻蜒
笠を手にいそぐ夕や河鹿鳴ク
【如意に蜻蜒のとまりし画に】
耳なくてにげるやんまの悟り哉
下駄箱の奧になきけりきり/\す
【根岸草庵】
我庵や蠧にまじはる蟋蟀
蜩に思ふことなきこじき哉
ヘソイ
乞食の腹を渡るや雁の聲
[#「ヘソイ」は「腹を」の右側に注記するような形で]
叩く尾のすりきれもせす石敲き
鶺鴒の飛び石づたひ來りけり
飛ぶさまや尾につらさるゝ石叩き
鶺鴒や岩を凹める尾の力
鶺鴒の尾にはねらるゝ蚯蚓哉
鶺鴒の糞して行くや石佛
ひよい/\と鶺鴒ありく岩ほ哉
【大磯松林舘】
汐風にすがれて鳴くやきり/\す
虫の鳴隅/\暗し石灯籠
※[#「※」は「虫へん+車」、第3水準1−91−55、133−14]の蘆にとびつく襖かな
鶺鴒や欄干はしる瀬田の橋
のイ 五條哉イ
[#「のイ」は「や」の左側に、「五條哉イ」は「瀬田の」の左側に注記するような形で]
鵙啼て秋の日和を定めけり
【大磯千疊敷】
雀ほど鶸鳴きたてゝ山淋し
情なう色のさめたり秋の蝶
澁鮎のさりとて紅葉にもならず
【三嶋社】
ぬかつけは鵯なくやどこてやら
【行脚】
我なりを見かけて鵯のなくらしき
鵯の人をよぶやら山淋し
【範頼の墓に笠をさゝげて】
鶺鴒よこの笠叩くことなかれ
神に灯をあげて戻れば鹿の聲
しづ/\と塒出の鷹や下いさみ
むら/\と雁かねたまる小池哉
澁鮎の岩關落す嵐かな
【古戰場】
螳螂も刀豆の實にくみつくか
秋の蝶動物園をたどりけり
軍艦の帆檣高し渡り鳥
蚯蚓
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