音堂】
むら鳥のさわぐ處や初櫻
散る梅は祗王櫻はほとけ哉
【上野】
花の雲かゝりにけりな人の山
【清水氏一周忌】
落花樹にかへれど人の行へ哉
ぬれ足で雀のあるく廊下かな
名月の出るやゆらめく花薄
けさりんと体のしまりや秋の立つ
茶の花や利休の像を床の上
甘干の枝村かけてつゞきけり
甘干にしたし浮世の人心
初汐やつなぐ處に迷ふ舟
夕立や一かたまりの雲の下
宵闇や薄に月のいづる音
親鳥のぬくめ心地や玉子酒
白梅にうすもの着せん煤拂
何もかもすみて巨燵に年暮るゝ
[#改頁]
明治二十一年
花に行く足に二日の灸かな
山燒くや胡蝶の羽のくすぶるか
見ればたゞ水の色なる小鮎哉
梅雨晴やところ/\に蟻の道
すつと出て莟見ゆるや杜若
萎みたる花に花さく杜若
底見えて小魚も住まぬ清水哉
木の枝に頭陀かけてそこに晝寐哉
蚊柱や蚊遣の烟のよけ具合
夕立の來て蚊柱を崩しけり
振袖をしぼりて洗ふ硯哉
女にも生れて見たき踊哉
萩ちるや檐に掛けたる青燈籠
西日さす地藏の笠に蜻蛉哉
鹿聞て出あるく人も歸りけり
一ひらの花にあつまる目高哉
海原や何の苦もなく上る月
くらがりの天地にひゞく花火哉
青/\と障子にうつるはせを哉
秋の蚊や疊にそふて低く飛ぶ
哀れにも來て秋の蚊の殺さるゝ
狼の聲も聞こゆる夜寒かな
不二こえたくたびれ※[#「※」は「白+はち」、第3水準1−14−51、13−11]や隅田の雁
夕榮や雁一つらの西の空
片端は山にかゝるや天の川
【いとけなき頃よりはぐゝまれし嫗のみまかり給ひしと聞くに力を失ひて】
添竹も折れて地に伏す瓜の花
聲立てぬ別れやあはれ暖鳥
一夜妻ならであはれや暖鳥
雪よりも時雨にもろし冬牡丹
白露のおきあまりてはこぼれけり
【根津のあとにて】
明家やところ/\に猫の戀
[#改頁]
寒山枯木 明治己丑廿二年
高砂の松の二タ子が門の松
我庭に一本さきしすみれ哉
山の花下より見れば花の山
鳥なくや獨りたゝすむ花の奧
つくねんと大佛たつや五月雨
五月雨の晴間や屋根を直す音
つきあたる※[#「※」は「しんにょう+占」、第4水準2−89−83、15−8]一いきに燕哉
【村園門巷多相似】
燕や間違へさうな家の向き
白砂のきら/\とする熱さ哉
蓮の葉にうまくのつたる蛙哉
屋根葺の草履であがる熱哉
燕の飛ぶや町家の藏がまへ
七夕に團扇をかさん殘暑哉
秋風はまだこえかねつ
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