る兩足踏みのばせし心よさ。曙の頃隱士と某と三人して濱邊より星月夜の井に到る。
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鎌倉は井あり梅あり星月夜
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長谷の觀音堂に詣でゝ見渡す山の名所古蹟隱士が指さす杖のさき一寸の内にあつまりたり。
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歌にせん何山彼山春の風
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こゝは何、かしこは何、日蓮の高弟日朗の土窟は此奧なりなど一々に隱士の案内なり。大佛は昔にかはらぬ御姿ながらもその御心には數百年の夢幻何とか觀じ給ふらん。きのふ見し人はけふ見る人にあらず、けふ見る人は明日見ん人にもあらず。況して今の人七百年の昔も知らねば七百年の昔いかでか今の世を推し量らん。
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大佛のうつら/\と春日かな
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此の夜はまた隱士の家に宿る。「浪音高し汐や滿つらん」と頻りに口ずさみて上の句置き煩へる隱士の聲ほのかになりて我夢はいづくの山をか、かけ※[#「えんにょう+囘」、第4水準2−12−11]りし。翌日は雪の下に古蹟を探る。興亡の感くさ/\に起りてそゞろに胸を衝く思ひなり。
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高とのゝ三つは四つは
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