番の汽車にて鎌倉に赴く道々うかみ出づる駄句の數々、
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岡あれば宮宮あれば梅の花
家一つ梅五六本こゝも/\
旅なれば春なればこの朝ぼらけ
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 先づ由井が濱に隱士をおとづれて久々の對面うれしやと、とつおいつ語り出だす事は何ぞ。歌の話發句の噂に半日を費したり。即景。
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陽炎や小松の中の古すゝき
春風や起きも直らぬ磯馴松
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 ひとりふら/\とうかれ出でゝ繩手づたひにあゆめば、行くともなしに鶴が岡にぞ著きにける。銀杏を撫で石壇を攀ぢ御前に一禮したる後瑞垣に憑《よ》りて見下ろせば數百株の古梅ややさかりを過ぎて散りがてなるも哀れなり。
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銀杏とはどちらが古き梅の花
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 建長寺に詣づ。數百年の堂宇松杉苔滑らかに露深し。
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陽炎となるやへり行く古柱
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 圓覺寺は木立晝暗うして登りては又登る山の上谷の陰草屋藁屋の趣も尊げなるに坐禪觀法に心を澄ます若人こそ殊勝なれ。
 其夜は由井の浦浪を聞きつゝ夜一夜旅の勞れの寢心にくたびれた
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