つけの幸と存ぜられ候なれ。されば後世にても長歌を詠む者には直に萬葉を師とする者多く從つて可なりの作を見受け申候。今日とても長歌を好んで作る者は短歌に比すれば多少手際善く出來申候。(御歌會派の氣まぐれに作る長歌などは端唄《はうた》にも劣り申候)併し或る人は難じて長歌が萬葉の模型を離るゝ能はざるを笑ひ申候。それも尤には候へども歌よみにそんなむつかしい事を注文致し候はゞ古今以後殆ど新しい歌が無いと申さねば相成|間敷《まじく》候。猶ほいろ/\申し殘したる事は後鴻《こうこう》に讓り申候。不具。[#地から2字上げ]〔日本 明治31[#「31」は縦中横]・2・12[#「12」は縦中横]〕
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 再び歌よみに與ふる書


 貫之は下手な歌よみにて古今集はくだらぬ集に有之候。其貫之や古今集を崇拜するは誠に氣の知れぬことなどと申すものゝ實は斯く申す生も數年前迄は古今集崇拜の一人にて候ひしかば今日世人が古今集を崇拜する氣味合は能く存申候。崇拜して居る間は誠に歌といふものは優美にて古今集は殊に其粹を拔きたる者とのみ存候ひしも三年の戀一朝にさめて見ればあんな意氣地の無い女に今迄ばかされて居つた事か
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