尋ね候へば其人が首をふつていやとよ和歌は腐敗し盡したるにいかでか改良の手だてあるべき置きね/\など言ひはなし候樣は恰《あたか》も名醫が匙を投げたる死際の病人に對するが如き感を持ち居候者と相見え申候。實にも歌は色青ざめ呼吸絶えんとする病人の如くにも有之候よ。さりながら愚考はいたく異なり、和歌の精神こそ衰へたれ形骸は猶保つべし、今にして精神を入れ替へなば再び健全なる和歌となりて文壇に馳驅するを得べき事を保證致候。こはいはでもの事なるを或る人がはやこと切れたる病人と一般に見|做《な》し候は如何にも和歌の腐敗の甚しきに呆れて一見して抛棄したる者にや候べき。和歌の腐敗の甚しさもこれにて大方知れ可申候。
 此腐敗と申すは趣向の變化せざるが原因にて、又趣向の變化せざるは用語の少きが原因と被存候。故に趣向の變化を望まば是非とも用語の區域を廣くせざるべからず、用語多くなれば從つて趣向も變化可致候。ある人が生を目して和歌の區域を狹くする者と申し候は誤解にて少しにても廣くするが生の目的に御座候。とはいへ如何に區域を廣くするとも非文學的思想は容《い》れ不申、非文學的思想とは理窟の事に有之候。
 外國の語も用ゐ
前へ 次へ
全38ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング