《きょうく》、喜悦、感慨、希望等に悩まされて従来の病体益※[#二の字点、1−2−22]神経の過敏を致し、日来《ひごろ》睡眠に不足を生じ候次第、愚とも狂とも御笑ひ可被下《くださるべく》候。
従来の和歌を以て日本文学の基礎とし、城壁と為《な》さんとするは、弓矢|剣槍《けんそう》を以て戦はんとすると同じ事にて、明治時代に行はるべき事にては無之候。今日軍艦を購《あがな》ひ、大砲を購ひ、巨額の金を外国に出すも、畢竟《ひっきょう》日本国を固むるに外ならず、されば僅少《きんしょう》の金額にて購ひ得べき外国の文学思想|抔《など》は、続々輸入して日本文学の城壁を固めたく存候。生は和歌につきても旧思想を破壊して、新思想を注文するの考にて、随《したが》つて用語は雅語、俗語、漢語、洋語必要次第用うるつもりに候。委細後便。
追て、伊勢の神風、宇佐の神勅云々の語あれども、文学には合理非合理を論ずべき者にては無之、従つて非合理は文学に非ずと申したる事無之候。非合理の事にて文学的には面白き事|不少《すくなからず》候。生の写実と申すは、合理非合理事実非事実の謂《いい》にては無之候。油画師は必ず写生に依り候へども、そ
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