何事ぞ。代々の勅撰集《ちょくせんしゅう》の如き者が日本文学の城壁ならば、実に頼み少き城壁にて、かくの如き薄ツぺらな城壁は、大砲一発にて滅茶滅茶《めちゃめちゃ》に砕《くだ》け可申候。生は国歌を破壊し尽すの考にては無之、日本文学の城壁を今少し堅固に致したく、外国の髯《ひげ》づらどもが大砲を発《はな》たうが地雷火を仕掛《しか》けうが、びくとも致さぬほどの城壁に致したき心願《しんがん》有之、しかも生を助けてこの心願を成就《じょうじゅ》せしめんとする大檀那《おおだんな》は天下一人もなく、数年来|鬱積《うっせき》沈滞せる者|頃日《けいじつ》漸《ようや》く出口を得たる事とて、前後《ぜんご》錯雑《さくざつ》序次《じょじ》倫《りん》なく大言《たいげん》疾呼《しっこ》、われながら狂せるかと存候ほどの次第に御座候。傍人より見なば定めて狂人の言とさげすまるる事と存候。なほこのたび新聞の余白を借り得たるを機とし思ふ様愚考も述べたく、それだけにては愚意分りかね候に付、愚作をも連ねて御評願ひたく存じをり候へども、あるいは先輩諸氏の怒に触れて差止めらるるやうな事はなきかと、それのみ心配|罷《まかり》あり候。心配、恐懼
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