行水がすんで、団扇で尻か何か叩く音がする。
足音がした。南裏の木戸が明いた。
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母はちいさき灯籠とみそ萩とを提げて帰り給へり。
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今年は阪[#「阪」に「ママ」の注記]本の町が広くなつて草市の店が賑かに出た。
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など話し給ふ。
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汽車通る。やがて単行の汽鑵車が通る。
南の家で戸じまりの音がする。
南東の家で戸じまりの音がする。四隣漸く静まる。
次の間で麻木を折る音がする。
上野の十時の鐘が聞える。
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午後十時より十一時迄
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下り列車通る。
単行の汽鑵車、笛を鳴らし/\、今度は下つて往た。間も無く上り列車が来た。
上野停車場の構内で、汽鑵車が湯を吐きながら進行を始める音が聞える。
蛙の声が次第に高くなる。
遠くに犬が頻りに吠える。
門前の犬吠え出す。
又水汲みに来た。
東隣では雨戸をしめる。
又星が見えると独りごち給ふ。
戸締りの音
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蚊帳を釣り寝に就く
午後十一時より十二時迄
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