行水がすんで、団扇で尻か何か叩く音がする。
 足音がした。南裏の木戸が明いた。
[#ここから4字下げ]
母はちいさき灯籠とみそ萩とを提げて帰り給へり。
[#ここで字下げ終わり]
 今年は阪[#「阪」に「ママ」の注記]本の町が広くなつて草市の店が賑かに出た。
[#ここから4字下げ]
など話し給ふ。
[#ここで字下げ終わり]
 汽車通る。やがて単行の汽鑵車が通る。
 南の家で戸じまりの音がする。
 南東の家で戸じまりの音がする。四隣漸く静まる。
 次の間で麻木を折る音がする。
 上野の十時の鐘が聞える。
[#ここから4字下げ]
午後十時より十一時迄
[#ここで字下げ終わり]
 下り列車通る。
 単行の汽鑵車、笛を鳴らし/\、今度は下つて往た。間も無く上り列車が来た。
 上野停車場の構内で、汽鑵車が湯を吐きながら進行を始める音が聞える。
 蛙の声が次第に高くなる。
 遠くに犬が頻りに吠える。
 門前の犬吠え出す。
 又水汲みに来た。
 東隣では雨戸をしめる。
 又星が見えると独りごち給ふ。
 戸締りの音
[#ここから4字下げ]
蚊帳を釣り寝に就く
午後十一時より十二時迄
[#ここで字下げ終わ
前へ 次へ
全5ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング