闇汁圖解
子規
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)クス/\
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[#闇汁の図]
一、時は明治卅二年十月二十一日午後四時過、處は保等登藝須發行所、人は初め七人、後十人半、半はマー坊なり。
一、闇汁の催しに群議一決して、客も主も各物買ひに出づ。取り殘されたる我ひとり横に長くなりて淋しげに人々の歸を待つ。
一、おくればせに來られし鳴雪翁、持寄りと聞いて、※[#「勹<夕」、第3水準1−14−76]々に出で行きたまふ。出がけに「下駄の齒が出て來ても善いのですか」と諧謔一番。
一、一人歸り二人歸り、直に臺所に入りて、自ら洗ひ自ら切る。時にクス/\と忍び笑ふ聲、忽ちハヽヽヽヽとどよみ笑ふ聲。
一、準備出來る迄に一會催すべしとの議出づ。座上柿あり、柿を以て題とす。鳴雪翁曰く十句の時は屹度句が失せますと。果して然り。
一、飄亭、青々後れて到る。物無く句無し。
一、一個の大鍋は座敷の中央に据ゑられ、鍋を圍んで坐する人九人、伏す人一人、いづれも眼を圓くし、鼻息を荒くして鍋の中を睥睨す。鍋の中から仁木彈正でもせり上りさうな見え[#「え」は「江」のくずし字]なり。ぬば玉の闇汁會はいよ/\幕あきとなりぬ。
一、鳴雪翁曰く、飯を喰ふて來て殘念しましたと。先づ椀を取つてなみ/\と盛る。それより右※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りに順を追ふて各盛る、廻つて未だ半に至らず鳴雪翁既に二杯目を盛る。「實にうまいです」。
一、盛るに從つて杓子にかゝる者、青物類はいふに及ばず、豚あり、魚あり、餅あり、竹輪あり、海の物、山の物、何が何といふ事を知らず。只かゝらぬは一寸八分の觀音樣あるのみ。
一、鍋の中を杓子にてかきまぜながら「ヤー/\※[#「飮のへん+稻のつくり」、第4水準2−92−68]餅がかゝつたぞ、誰だ/\、大福を入れたのは」と碧梧桐※[#「口+斗」、20−6]ぶ。皆々笑ふ。固より入れた者の外に入れた者を知らず。
一、鳴雪翁曰く、うまい。碧梧桐曰く、うまい。四方太曰く、うまい。繞石曰く、うまい。我曰く、うまい。虚子曰く、うまい
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