花の花壇)の形を為す。芍薬《しゃくやく》一本、我庭園中の最も艶《えん》なる者なり。八車《やぐるま》、孔雀草《くじゃくそう》、天竺牡丹《てんじくぼたん》、昼照草《ひでりそう》、丁子草《ちょうじそう》、薄荷《はっか》などあり。総ての花皆うつくしとのみ見し中に孔雀草といふ花のみひとり厭《いと》はしく思ひぬ。
 西は家の裏にして畠なり。家に近く蚕豆《そらまめ》、豌豆《えんどう》など一うね二うね植ゑたるが、その花を見れば心そぞろにうき立ちて楽しさいはん方なし。南瓜《かぼちゃ》の蔓《つる》溜壺にとりつきて大きなる仇花に虻《あぶ》の絶えざるも善し。梨一本梅一本あり。梅は薄紅梅なり。ワキギ、三度豆、ナンキンなどの畠ありて後は竹藪なり。ドクダメ、羽衣草《はごろもそう》の花は花とも思はざりき。
 東は井戸端なり。きたなき泥溝ありて、花シヤウブ、トリカブトは水溜を囲みて咲きたり。桃の若木あり。無花果《いちじく》の下に萱草《かや》の咲きたるは心にとまらず。ここに菊一うねありて、小菊ばかり植う。猿丸とは赤くて花の多くつく菊なり。
 春風あたたかに菜の花に蝶《ちょう》飛ぶ頃、多くのわらはべ男女うちまじりて、南の野
前へ 次へ
全8ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング