秋の歌の外に

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宇治前太政大臣家に三十講の後歌合し侍りけるによみ侍りける 民部卿長家
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夏の夜もすゞし[#「すゞし」に白丸傍点]かりけり月影は庭しろたへの霜と見えつゝ
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夏の夜涼しき心をよみ侍りける 堀河右大臣
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ほともなく夏のすゞし[#「すゞし」に白丸傍点]くなりぬるは人にしられて秋やきぬらん
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くれの夏有明の月をよめる 内大臣
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夏の夜の有明の月を見る程に秋をもまたて風そすゝし[#「すゝし」に白丸傍点]き
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泉の声夜に入て涼しといふ心をよみ侍りける 源師賢朝臣
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さ夜深き岩井の水の音きけはむすはぬ袖も涼し[#「涼し」に白丸傍点]かりけり
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など夏に涼しといへる歌多く載せられぬ。霜といひ秋といひて「涼し」と結びたるは猶秋の意を離れねど「さ夜深き」の歌は秋とも霜ともいはで只「涼し」といひたるにて此語の稍夏に用ゐ初められたるを見るべし。
 
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