れて、
[#ここから2字下げ]
つゝら折幾重の峯をわたりきて雲間にひくき山もとの里
[#ここで字下げ終わり]
日もやゝ暮れかゝれば四方濛々として山とも知らず海とも知らず。かけ上る駒の蹄に踏み散らす雲霧のあはひを見れば一歩の外己に削りたてたる嶮崖の底もかすかなることおそろし。登れども登れども極まる処を知らず。山ます/\高く雲いよ/\低し。
[#ここから2字下げ]
見あぐれば信濃につゞく若葉哉
[#ここで字下げ終わり]
軽井沢はさすがに夏猶寒く透間もる浅間おろしに一重の旅衣、見はてぬ夢を護るに難かり。例ならず疾く起きいでゝ窓を開けば幾重の山嶺屏風を遶《めぐ》らして草のみ生ひ茂りたれば其の色染めたらんよりも麗はし。
[#ここから2字下げ]
山々は萌黄浅葱やほとゝぎす
[#ここで字下げ終わり]
浅間は雲に隠れて煙もいづこに立ち迷ふらんと思はる。汽車を駆りて善光寺に詣づ。いつかの大火に寺院はおろかあたりの家居まで扨も焼けたりや焼けたり、千歳の松も限りあればや昔の縁|乍《たちま》ち消えうせて木も枝もやけこがれさも物うげに立てるあはひに本堂のみ屹然として聊かも傷はざるは浪花堀江の御難をも逃れ給
前へ
次へ
全15ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
正岡 子規 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング