アとはもちろんである。
逮捕されたのも、そのブリストルの家であつた。ネイルが三人の部下を率いて、みずから出張したのだった。ベルを押して案内を乞《こ》うと、エデスが玄関に出て来た。四人の警官は、ガス会社の定期検査人に化《ば》けていたので、わけなく家内へはいり込んだ。だらしない服装をしたジョウジ・ジョセフ・スミス――その時はかなりの年配で、立流な口|鬚《ひげ》を貯えていた――が、台所の煖炉《だんろ》の前で石炭を割っていた。その彼の肩へ、ネイルが手を掛けるのを合図に、三人の探偵が左右と背後からいちじに襲った。当面の逮捕の理由は、もちろん殺人ではなかった。それは伏せておいて、弁護士の手数料を払わないというので告発されたことに細工ができていた。スミスはすっかり安心していて逮捕の時も顔色一つ変えなかった。
裁判は、一九一五年の六月二十二日から九日間続いた。裁判長はスクラトン氏、検事がアウチボルド・ボドキン卿、弁護人は故エドワアド・マアシャル・ホウル卿という花形ぞろいの顔ぶれであったが、ホウル卿の弁護がいかに巧《たく》みであっても、鋼鉄のような事実は曲げることができない。スクラトン裁判長が陪審《
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