サの間なんらの連鎖もないということは、偶然事としてありうるかもしれないが、ちょっと考えられない。かならず底を関連するなにものかが存在するに相違ないという当初の仮定は、ネイルの胸中において、捜査の歩と一緒に確信に進んでいった。アウサア・ネイルは、この事件で名を成して、警察界における今日の地位に達したのだが、実際彼がスミス事件を手がけたのは、適材適所であった。僕はあれで自分の根気を試しただけのことだと、後年彼は人に語っているが、その根気が大変であった。眼まぐるしい変名を追っていちいちスミスに結びつけ、各保険会社の関係書類を調査し、各事件の被害者の身|許《もと》を洗い、有無を言わせないところまで突きとめるために、ネイルはじつに四十三の市町村を飛びまわり、二十一の銀行に日参した。その間面会して供述を取った証人の数は百五十七人にのぼっている。いうまでもなくスミスはこうして自分の頸《けい》部の周囲にひそかに法律の縄が狭められつつあることなどすこしも知らずに、例によってブリストルのエデス・ペグラアのもとにあって悠々自適をきめこんでいたのだ。特命を帯びた刑事が日夜張り込んで尾行を怠《おこた》らなかった
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