氏@Lloyd ――と呼ぶ男とふとしたことから知りあいになった。ちょうどこの時マアガレット・ロフティは失恋に悩んでいたので、この痩せぎすで背の高い、色白のジョン・ロイド君から優しい同情の言葉を寄せられると、その感謝の心持ちは必然的に恋に変わって、そこへロイド君が結婚の申し込みをしたものだから、二人は急転直下的に、同月十七日にバス町で結婚式を挙げた。式後ただちに、ロイド君は花嫁を保険会社へ伴《つ》れて行って、七百ポンドの生命保険を付けた。それから、花嫁の金として銀行にあった、たった十九ポンドを引き出して、その中から二人分の汽車賃を払ってロンドンへ出た。上京する前にロイド君はハイゲイト区オルチャアド街のウイルドハアゲン夫人の下宿へ手紙を書いて部屋を予約しておいた。ところがその家へ着いてみるとまだ部屋の用意ができていないで、二、三時間してから来てくれというのだ。仕方がないからロイド君はお上《のぼ》りさんの花嫁を引きまわして、ぶらぶらロンドンの町を見て歩いて時間をけした。が、下宿の女将のウイルドハアゲン婆さんは、二人があまり貧弱な風体《ふうてい》をしているので、はじめ部屋を見に来た時から、そう
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