利C槽を買っている。けちな借家で、家に浴槽が付いていないので、彼はヒル街の金物商へでかけて行って、一度目的に役立ちさえすれば好いのだから、粗末なのでたくさんだ。一ポンド十七シリング六ペンスで一番|安価《やす》いブリキのやつを買った。それも、はじめ二ポンドというのをしつこく値切って負けさせたのだ。資本は必要の範囲内で少額なほどよいというので、細かい男だった。

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 三日後の七月十一日に、同じ町に住む開業医フレンチ医師の許《もと》に、ヘンリイ・ウイリアムズが夫人を伴《ともな》って診察を受けに来た。聞いてみると、夫人に軽微な発作《ほっさ》が起るというのである。それは、夫人のベシイ・マンディがいうのではなく、良人《おっと》のヘンリイが話したのだった。ちょうどその二、三日酷暑が襲って来て、急病人が多く、健康な人もなんらか身体に変調を感じ易い時だったので、ただそれだけのことにすぎないと、ベシイ・マンディのウイリアムズ夫人は、医者へ来てまでも軽く抗弁していたが、とにかくというのでフレンチ医師が診察すると、ヘンリイの話した容態が先入主になっていたせいか、医師は簡単に癲癇《てんかん》
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