フ疑いがあるという診断を下した。ヘンリイはあらかじめ癲癇の初期の症状を調べて行って、それに適合するようにいったのであろう。フレンチ医師が医学校を出てまもない、二十代のほやほやだったということも、彼にとっては好|都合《つごう》だったに相違ない。こうしてベシイ・マンデイは嫌応《いやおう》なしに癲癇の兆候があるということに外部から決められてしまったのだ。ヘンリイはおおいに「心配」して、その日から無理やりベシイを寝台に寝かせきりにしてしまった。翌十二日に念のためフレンチ医師が往診すると、どこもなんともなくぴんぴんしているヘンリイ夫人が、すっかり病人めかして寝台に寝かされていた。医師はちょっと滑稽《こっけい》に感じて、癲癇《てんかん》といっても、軽兆候が見える程度のものだから、そんなに用心する必要はないと言い残して帰った。が、明けて十三日――ベシイ・マンディにとってはたしかに十三[#「十三」に傍点]の凶日だった――フレンチ医師は「周章狼狽《しゅうしょうろうばい》」して飛び込んで来たヘンリイ・ウイリアムズによって愕《おどろ》かされた。「癲癇《てんかん》患者」のベシイ夫人が、浴槽で「死んだように」に
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