ナある立場を固守して、保管中のベシイの財産から鐚《びた》一文もまわすことはできないと断然拒絶したのだ。これで、本人のベシイが生きている間は、ヘンリイ・ウイリアムズはその二千五百ポンドに手をおく横会が絶対になくなったわけである。ベシイが死ねば、遺言によって遺産を相続することは、比較的簡単なのだ。もう一つ、今度彼が決行を急いだ理由は、伯父がその財産管理人としての権利を伸長させてベシイの全財産を政府の年金に組み更《か》えはしないかということを懼《おそ》れたためだった。伯父が危険を感じているとすれば、そういうことができるのである。こうすれば、自分の責任が軽くなると同時に、いかにヘンリイが策動したところで、手も足も出ないし、ベシイも生涯をつうじて完全に保証されることになるのだから、叔父がこの手段を採《と》るかもしれない可能性は十分にあるのだった。ヘンリイ・ウイリアムズは狼狽《ろうばい》して、着々「浴槽の花嫁」の準備に取りかかった。
機会を窺《うかが》っているうちに、容赦《ようしゃ》なく日がたってしまう。五月なかばになった。イギリスの春は遅いがこのころは一番いい時候である。公園の芝生がはちきれそ
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