ト知った男のヘンリイ・ウイリアムズを、ベシイは忘れかねていたのだろう。恋は思案の外という真理に洋の東西はない。ああして結婚後すぐ金を浚《さら》って姿を晦《くら》ました男ではあるが、ベシイは再会と同時にすべてを水に流して、またただちに彼と同棲《どうせい》生活を始めた。が、その前に、いくら夫婦の間でも金銭のことは明瞭にしておかなければならないとヘンリイが主張して、彼は、二年前に持ち逃げしたアリスの金にたいして、この時あらためて借用申候《しゃくようもうしそろ》一|札之事《さつのこと》を入れている。しかも四分の利子ということまで決めたのだから、念が入っている。水臭いようだが、形式はあくまでも形式として整えておかなければ気がすまないとヘンリイが言うと、ベシイは、「帰って来た良人《おっと》」 の「男らしい態度」に泪《なみだ》を流して悦《よろこ》んだ。これで、ベシイの方は難なく納まったが、そうまでして堅いところを見せても、肝心《かんじん》の伯父パトリック・マンディには、依然として好印象を与えなかった。伯父はこのヘンリイ・ウイリアムズなる人物にますます不信と不安を募《つの》らせるいっぽうで、法定後見人
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