黷ヘ、彼女はそうとうの財産をもっているような口ぶりだったのが、よく調査してみると、月々の小遣《こづか》いの中から伯父《おじ》なるパトリック・マンディがいくらかずつ保留してベシイの名で積み立てておいた百三十八ポンドというものが自由になるだけで、ほかは一切いまいった後見人の伯父が財産の口を押えていて、本人のベシイでさえ手を触れることができないというのだ。これはなんとも当ての外れた話で、ヘンリイ・ウイリアムズはすくなからず勝手が違ったが、それでも百三十八ポンドは百三十八ポンドである。さっそく弁護士の方からパトリック・マンディの姪《めい》の結婚を報《しら》せてその金を送ってよこすように言ってやると、伯父がぐずぐず言い出してやはり弁護士を代理に立てたが、結局法律上ベシイの名義になっている金を送らないというわけにはゆかないので数日後、金は、ベシイの手に、というより、良人《おっと》ヘンリイ・ウイリアムズの手にはいった。するとその日に今度は彼がどろん[#「どろん」に傍点]をきめたのだ。ちょっとそこらへ行くような顔をして出たきり帰らないので、幻滅と悲痛に気の抜けたようになったベシイ・コンスタンス・アニイ
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