ヌうような、あの妙にはかない独身者の移転生活を送っていた。このベシイ・マンデイ嬢が、ヘンリイ・ウイリアムズ―― Henry Wiliams[#「Wiliams」は底本では「Wilians」と誤植] ――これも山田太郎的に、変名で候《そうろう》といわんばかりの変名だ。どうもスミスは能のない変名ばかり選ぶ癖があったようだ――に会ったのは、そうしてさかんに引っ越して歩いていた素人《しろうと》下宿の一つであった。これが日本の話なら、さしずめ神田か本郷の下宿の場が眼に浮かんで、舞台の想描も容易なのだが、西洋だって、同じことだ。下宿屋の恋は、急テンポをもって進展するにきまっている。ことにこの場合は相手が職業的「女殺し」ヘンリイ・ウイリアムズである。ベシイ・マンディの探していたものが冒険と退屈|凌《しの》ぎなら、とうとう彼女は、理想的なそれに行き当ったわけだ。しかもとんでもない大冒険の後、ついに彼女は、もう退屈を感じる必要のない場所へ行ってしまった。例によって、裸体のまま¢cDら天国へ旅立ったのである。
ヘンリイ・ウイリアムズは、背丈《せたけ》の高い、小|綺麗《ぎれい》な紳士だった。敏捷《すばしっ
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