塔hを相続していたが、それは後見人《こうけんにん》となっている伯父《おじ》のパトリック・マンデイが保管して、いくつにも分割して確実な事業に投資していたので、ベシイ・コンスタンス・アニイ・マンディの実際の所得は、年利わずかに百ポンドにもつかなった。が、ベシイ・マンディは、明らかに保守的な、内気《うちき》な女だったに相違ない。この少額な年収に満足して財産のことはすべて伯父パトリック・マンディに任せきりにしたまま、自分はほとんど宗教的な、あくまで静かな独身女の生活を守っていた。しかし、ベシイ・マンディも女性なのだし、それに、三十三なら、晩婚の女の多いイギリスあたりではそんなに老嬢《オウルド・ミス》の組でもないので、いつかは彼女の前に現われるであろう騎士を待つ心は無意識にも絶えずあったのだろう。大戦前の都会における女性の冒険といえば、せいぜい下宿屋を移り歩くくらいのものだったが、このベシイ・マンディもそれに倣《なら》って下宿屋から下宿屋へと自由なようで自由でない、なにか素晴らしい興味が待っているようでその実なんら[#「なんら」は底本では「ならん」と誤植]の興味も待っていない、大都会で自分の影を
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