宴hンは、本名のスミスになって情婦のエデス・ペグラアのもとへ帰り、カラアも着けずにスリッパ一つで家の中をのろのろしているような生活を数カ月続けた。
 すると、翌一九一四年の八月のことだ。
 アリス・リイヴル――偶然にも前の被害者と同じ呼名である――という女中が、ボウンマスでチャアルス・オリヴァ・ジェイムスと呼ぶ男と知りあいになった。チャアルス・オリヴァ・ジェイムスなんて、山田太郎みたいに変名変名していて、あまり上手な変名とはいえないが、とにかくこの Mr. Charles Oliver James は、知り合いになった四日目に、電光石火的にアリス・リイヴルに結婚を申し込んだ。アリス・リイヴルは、女中ながらも真面目に働いて、七十ポンドの銀行預金と家具をすこしとピアノを一台持っていた。彼女は、チャアルス・オリヴァ・ジェイムスの結婚の申し込みをさっそく承諾して、ピアノを十四ポンドで売り払って、結婚の日の九月十七日に、その金と一緒に、預金引出しの委任状に署名までして良人《おっと》チャアルス・オリヴァ・ジェイムスに渡している。結婚式を挙げたのはウィルウィッチの教会だった。同日、まもなく、二人はラ
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