うだ。や、では」
巡査が行こうとすると、お八重が、「あの、旦那」
と呼びとめた。峰吉はぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]として表彰文を読み出した。
「何だね」
「いえ、あの、お世話さまでございました」
巡査が立ち去ると、あとは峰吉の大声だった。
「消防組梯子係り故石川茂助君は、資性温順《しせいおんじゅん》にして――資性温順にして、か、何だこりゃあ――職に忠、ええと、職に忠――忠、忠、と――」
ちゅう、ちゅうが可笑しいといってお八重は腹を抱えた。で、峰吉は、汗と涙で濡れた顔を、出来るだけ「滑稽」に歪めて、黒子《ほくろ》の毛を引っぱりながら、いつまでもちゅうちゅう[#「ちゅうちゅう」に傍点]ちゅうちゅうとつづけていた。
[#地付き](〈新青年〉昭和二年十月号発表)
底本:「日本探偵小説全集11 名作集1」創元推理文庫、東京創元社
1996(平成8)年6月21日初版第1刷発行
1998(平成10)年8月21日再版
初出:「新青年」
1927(昭和2)年10月号
入力:大野晋
校正:noriko saito
2005年6月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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