故障が起って、跛足《びっこ》を引くような具合に、ぶらぶらやって来ているのだろう。エンジンが参ったり、その為めに応急舵制動機《ジュリイ・ラダア》でも掛けていたりすると、虫が這うように暇のかかるものだから、遅れているのに不思議はない、と、そう話し合って、最初は比較的呑気に構えていた。ところが、二日が三日となり、四日と過ぎても、ワラタ号は、ケエプ・タウン港外の水平線上に浮かび上って来ない。そこで、真剣に騒ぎ出した。船客の家族や友人達が、憂慮に閉ざされてケエプ・タウンの船会社支店へ殺到する。が幾ら訊かれても、会社のほうにも、発表す可き何らのニュウスが這入っていないのである。ワラタ号は、まるで夢の船のように、波の上に掻き消されてしまった。海がぽっかりと口を開けて、船と、其の不幸な人々を呑んだものとしか言い様がない。クラン・マッキンタイア号が、同じ方向の水平線の彼方に去り行くワラタ号を見送った後は、割りに往き来の多い航路なのにも係らず、同船を見かけた船は一隻もないのである。難破船らしい船影を認めたとか、或いは漂流貨物、非常時に船足を速めるために、犠牲に投げ棄てる所謂打荷の破片――そういった、難船に
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