つきものの手懸りも、何一つ発見されない。
 出帆したダアバンと、到着すべきケエプ・タウンと、二つの港で大騒ぎを演じているうちに、日は経って行く。

      2

 大颶風の時などには、普段人家に近い海岸に沿って流れてる木片、器具の毀れ等が、遠く沖に攫い出されて、潮の調子で群がって漂流し、素人眼には、宛然《さながら》難船でもあった現場のような観を呈することがあるものだが、この時は、こういう現象さえもなく、ワラタ号の行方は何うにも説明の附けようがないことになった。英国政府は特に駆逐艦を出動させる。その他、南亜海岸防備船、会社の捜索船、ケエプ・タウンとダアバン両市の義勇船隊、海洋関係の諸団体の呈供した夥しい捜索船、沿岸を点綴《てんてつ》する村々から出た漁船の群れ、土人舟に到るまで、南亜の海の全勢力を挙げて大規模の捜査を開始した。これが数箇月続く。が、ワラタ号の神秘を解く可き鍵の瞥見だに獲られない。難船なら難船で、何らかの形でそう認めることの出来る痕跡――例えば漂流物などを発見するのが普通だが、度びたび言う通り、此の場合は何一つそういう手掛りもないのだ。絶望と確定した後も、青錨汽船会社《ブ
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