らかれた。査問委員長は治安判事J・ディッケンスンで、この海事裁判は二箇月続く。何時、何処で、如何にして、何故ワラタ号は沈んだか――若し沈んだものとすれば――と、この問題を解決しようというのが査問の目的だが、結局色いろと想像を持出して、それをまた多勢で反駁し合うだけのことで、どこまで行っても限《き》りがない。貨物の積み込み方が拙くて、片方へ寄ったのだろうという説も出たが、これは、ダアバンで積荷を請負ったマアシアルという人が出て、ワラタ号の船艙の見取図に就いて説明し、その疑いは氷解した。円材甲板《スパア・デック》に六百十四噸の石炭を積む能力があって、そのために安定を失ったのではないか、との話しもあったが、調べてみると、当時ダアバン港で二百五十噸の石炭しか取っていないことが判り、これも根拠のない事になった。海事工廠の造艦学泰斗ウイリアム・ホワイト卿、ロバアト・ステイル氏なども出廷して、参考人として意見を徴されている。殊にステイル氏は、ワラタ号の設計図を研究した後、暴風雨や浪ぐらいで覆伏するようなことは絶対にあり得ないと断言した。余程重大な、致命的な事故が起ったに相違ないというのである。とうと
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