りで遭難し、航路を外れて長く行方不明だったことがある。このワイカト号は一と月程後に、聖《セント》ポウル孤島の近くに漂流しているところを発見救助されたが、セエビンはここに着眼して此処らに特殊の潮の流れがあるに相違ないと観、記録にあるワイカト号の漂流の跡を忠実に辿って行ったのだが、軈て果してセント・ポウル島には着いたものの、矢張り、ワラタ号に関する手がかりは杳《よう》として挙がらなかった。
 前にも言ったことだが、斯うなると、色んな連中が物識り顔に、勝手な事をいって現れる。船体の上部が重過ぎて、大体航海に適しない船だったことの、そう言えば、やれドックでも一遍引っ繰り返ったことの、いや、アドレイドでは浅瀬へ乗り上げたの、ジェリイみたいに船体に締まりが無く、処女航海でも甲板がばらばらに緩んで、おまけに救命艇は飾り物だったし、第一、あの船は、静かな海でも滅茶苦茶に揺れたものだ――などという類である。もっと不届きなのは、何時の時代、何処の国にも、|人さわがせ屋《センセイション・モンガア》というものはあるもので、濠洲と南亜の海岸|彼地此地《あちこち》で、空壜に這入った手紙や、遺書のようなものが六つも
前へ 次へ
全29ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング