等運転士が、八月十一日に、イースト・ランドンとバッシイ河口との間に二、三の屍体が浮かんでいるのを見たと言った。赤いドレッシング・ガウンに包まれた七、八歳の少女の溺死体が、浪のあいだに漂っていたというのだ。この話しは詳細を極めたもので、少女は深紅の頭巾をかぶり、黒い靴下を穿いて、両膝が露出していたという。この「赤いガウンの少女」は、その後もあちこちの海に現れて、多くの船員の眼に止まっている。年齢は見る人に依って十歳とも十二歳とも言われたが、何時も膝がむき出しで、黒い靴下をはいて波の間に間に浮かんでいる。ジイン・オリファント号という船の機関長も、この少女の屍体を見たと断言しているし、今いったトテナム号の一支那人火夫も、「Red girl in water」と証言するようにいった。そこでトテナム号の船長カックス氏は、わざわざ船を引っ返して、少女の浮かんでいたという海面を捜してみたが、その時は何も見えなかったと言う。飜車魚《サン・フィッシュ》でも見誤まったのだろうということになって、その二等運転士と支那人の火夫は、うんと叱られたが、二人は、確かに「赤いガウンの少女」だったと主張して止まなかった
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