換した信号の会話の中に、
クラン・マッキンタイア「濠洲よりの途、貴船は如何なる天候を持ちしや」
ワラタ「南西及び西の稍強風、横風《アクロス》」
クラン・マッキンタイア「Thanks, Goodbye Pleasant passage」
ワラタ「Thanks, Same to you, Goodbye.」
などと言っている。人間同士の立話しのようで、この、船の挨拶というものは仲なか面白い。が、此の時は、面白いなどという騒ぎではないので、これがワラタ号の最後の声だった。
そこで、またクラン・マッキンタイア号だが、もう一つの記録によると、こうしてワラタ号に追い残された日の午後から、軽い南西の風が起って、ちょっと浪が高かったが、決して厄介な程の天候ではなく、殊にクラン・マッキンタイア号よりずっと大きなワラタ号は、何ら荒れを感じなかったろうとある。そして其の南西の風も間もなく止んで、後は北西の微風に変り、至極く平穏な航海だったと言う。こうしてここでは、ワラタ号が暴風雨《あらし》のために覆伏したという推測を、完全に覆伏している訳である。
このクラン・マッキンタイア号がケエプ・タウンに
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