入港して、それから、ワラタ号の後からダアバンを出帆した船も、幾つとなく同じコウスを通ってケエプ・タウンへ着いた後までも、ワラタ号は遂に姿を見せないので、ようよう騒動は大きくなったのだ。ケエプ・タウンへ来る途中、クラン・マッキンタイア号は、二十七、八日の両日に、ワラタ号の他に十隻の船を海上で見かけている。それに、若しワラタ号が遭難したものならば、何かしら其の証跡――桿浮標《スパア》、救命帯、甲板椅子、屍体など、比較的浮揚力の多い物――が現場附近の海面に流れていて、船の運命を暗示していなければならないことは前に言った。ところが、これも何度もいうようだが、そういう発見物は何一つないのである。
では、ほかにワラタ号を見た船はないか。
ハアロウ号―― The Harlow ――という小さな貨物船。これが七月二十七日に、南亜の海岸を去る一哩半から二哩半の沖合いを、北東に向って航行していた。同日午後六時、船長のジョン・ブルウスという人が、約二十哩の距離に汽船の黒煙らしいものを認めたが、煙突のけむりにしては太く、高く上り過ぎているような気がしたので、一等運転士に向って、おい、あの船は火事じゃないか
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