のレポウトをその戦術に利用して、新造船ワラタ号は、二年前同じ造船所で進水した姉妹船 The Geelong 号に較べて、著しく安定が悪い。そして安定の悪いのは造船の不出来だから、約束の値段を負けろという談判を始めた。何でもかんでも負けさせるのが目的だから、この、ワラタ号の不安定という事は、会社側から非常に大袈裟に相手方の造船所へ通じられ、また外部の船舶関係へ向っても幾分声を大にして呼ばれた訳である。で、ワラタ号が不安定であるということは、斯ういう事情から、事実以上に宣伝されて、そのために船長も会社も、ちょっと自繩自縛的に困惑を感じていた位いなのだった。が、品物が出来て渡して終ってから、けちをつけられて値引きをされたのでは遣り切れない。バアクレイ・カアル造船所も躍起になって、断じてそんな事はないと言い張る。空船《カラ》でも、荷物を満載しても、ワラタは立派にバランスが取れていると言って一歩も退かない。かなり長いあいだ大喧嘩が続いた。この争論の最中に運命の第二航海に上ったので、そう言えば最初から問題の多い、嫌な船だった。
 英国の植民地政策華やかなりし時代である。英濠間を結ぶ生命線上第一の花
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