の最新船である。一九〇八年の十月に進水して、通商局とロイドの審査を受ける。「百点《ハンドレッド》、A1」としてパスしたが、B・A・Lの意向では、この船は喜望峰廻り濠洲行きの、主として移民船に設計した関係上、内務省移民局の検査も受けなければならない。やがてそれも通過して、船長は処女航海も、第二の、そして最後の航海もイルベリイ氏―― Captain Ilbery ――で、この人は、一八六八年に船長として青錨会社《ブルウ・アンカア》に入社してから、この一九〇九年、事件が起るまで四十一年間、ずっと事故無しで荒海を乗り廻して来たB・A・L切っての海の古武者《つわもの》だった。
3
処女航海から帰英した時、老船長イルベリイ氏は、ワラタ号に別に不完全なところはないが、只ドックへ這入るのにバラスト――安定を与えるために船底に積み込む砂、砕石、又は水の類――の重みを藉りなければならない程、すこし安定が取れていないようだということを、会社へ報告した。すると、丁度其の時会社は、竣工期限超過の日割払戻金の問題で、バアクレイ・カアル造船所との間にごたごたを生じていた際だったので、早速この、船長
前へ
次へ
全29ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング