機関銃の巣まで踏み躪《にじ》ったが、敵の戦線からは、不思議な恰好《かっこう》をした弾がタンクに集中されて、弾丸不貫通という折り紙付きの鉄側にさかんに穴があくのである。
 こんなはずはないというので、イギリスのスパイ群がいろいろ動いたあげく、いまの、スタンレイ・ランドルフ大尉とマタ・アリとのロマンスが、初めて摘出《てきしゅつ》されたのだった。

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 パリーのアパアトメントの客間で、一人の美女が男の友達の上に屈《かが》み込んで強い接吻を押している。その接吻から西部戦線では、鋼鉄の怪物に特製の弾丸が炸裂《さくれつ》しているのだ。この因果関係に、近世探偵組織を象徴して、複雑多色なる一つの驚くべき模様《パタアン》をわれわれは見る。

 一九一七年、三月。一通の秘電が、ベルリンの本部からマタ・アリへ飛んだ。
「以前、某閣僚にたいしてのみは、質問探索等すべて積極的態度を採《と》るべからずといった命令を取り消す。近く仏軍首脳部において全線総攻撃の計画ありと聞く。いかなる方法をもってもその時日を確かめよ。」
 これがマタ・アリを考えさせた。初めてわかった。いままでその大臣にだけは戦争
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