三万五千マルクの正金を支給するようにと暗号電報が飛んでいる。これは、アムステルダムのドイツ密偵部が、指定の経路でただちに送金した。マタ・アリ自身も、このパリー入りにはよほど用心した跡が見える。その某大臣はじめ重立《おもだ》った恋人たちに手紙を書いて、あの第二号とのいきさつ、彼女の被《こうむ》った「迷惑」などを訴えている。要路の恋人たちは筆をそろえて、二度とそんな失礼はさせないから御安心あれ、呼び寄せたい一心で一生けんめいだった。いちじスタンレイ・ランドルフ大尉と別れて、別々にパリーへはいる。パリーでこっそり落ちあっておおいに遊ぼうという約束。
約束どおり、ランドルフが停車場へ出迎えていて、ドイツスパイ団の護衛の下に、一週間ほど同棲した。その間にマタ・アリは、このランドルフについて、マドリッドから持越しの、タンクに関するある程度までの秘密を嗅《か》ぎ出している。まもなくランドルフは英本国に召還《しょうかん》されてしまった。
この使命では、H21はあまり成功したとはいえない。が、それは彼女の落度《おちど》ではなく、新発明の地上|超弩級《ちょうどきゅう》、タンク「マアク九号」の秘密|漏
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