持って来て、葡萄酒の方は、まあこれでいいが、その五日後である。船艙《せんそう》の覆《おお》いにまで黒人植民兵を満載して仏領アフリカから急航しつつあった運送船が、アルジェリアの海岸近くでドイツの潜航艇に遣《や》られている。
それも一隻や二隻ではない。戦争が終わるまで、正確な遭難数は発表されなかったが、当時、北部アフリカとマルセイユを往復する運送船というと、まるで手を叩くように、奇妙に地中海のどこかで狙い撃ちされたので、運輸系統やスケジュウルが洩れているのではないかと大問題になった。みんなマタ・アリが、商船《マリン》サアヴィスの関係者を珈琲店《カフェ》へつれ出して聞き出し、葡萄《ぶどう》酒の年号に託して通告したもので、同志のドイツスパイが給仕人に化《ば》けていたるところの酒場、カフェ、料理店に住み込んでいた。いまでも、ヨーロッパの給仕人にはドイツ生れの人間が多いが、戦争当時は、それが組織的に連絡を取って一大密偵網を張ったものである。後日マタ・アリの告白したところによれば、この方法で十八隻沈めたことになっている。
ところで、女のスパイは長く信用できないと言われているが、これはなにも女性は
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