寄りあっていたんだから耳のかたわらで爆弾が破裂しても、聞えるはずがない。あとでみんな悪口を言った。とにかく、こうして屍《し》体にばかり気を取られていた発見者の横を、影のようにするりと抜け出たであろう「斬り裂くジャック」は、すぐその足でアルドゲイトのミルト広場《スクエア》へ立ちまわり、四十五分後には、また一人キャザリン・エドウスという辻君《つじぎみ》を殺害し、やはり陰部から下腹を斬り裂いて、子宮を取っている。このキャザリン・エドウスをはじめ多くの被害者が、いかに哀れに貧困な、下層の売春婦であったかは、キャザリン・エドウスが、炊事に汚《よご》れたエプロン姿で男――犯人――と他人の家の軒下で性行為を行ない、そのまま殺されていた一事でもわかる。犯人はこの前掛けの端をむしり取ってそれで手とナイフを拭「た。拭《ふ》きながら歩いたものとみえる。さして遠くないグルストン街の角に、その、血を吸って重くなったエプロンの切布《きれ》が落ちていた。そして、このグルストン街の角で、犯人はあの、有名な「殺人鬼ジャックの宣言《メッセイジ》」をそこの璧へ白墨《はくぼく》で書いたのである。
The Jews are
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