新聞記者ガイ・ロウガン氏に語って、この殺人者は、個々のエロティックな発作的狂乱の場合以外、平常はごく普通の、穏厚な一市民であろうとの意見を述べている。
「彼は、一つの犯行をすまして帰宅して、朝になって、その一時的激情から覚めると、自分が前夜なにをしたか、すこしも記憶していないに相違ない。」
ウィンスロウ博士はこう言った。
が、いくら著名な専門家の言でも、事実から見て、これはすくなからず変だと言わなければならない。なるほど、犯人は一事狂者《モノマニアック》で、ある一つの迷執《めいしゅう》に駆られてこの犯行を重ねているということは肯定しうるが、しかし、ウィンスロウ博士が想定しているような、意力の加わらない、いわば夢遊病者のごとき発作的錯乱者が、明白なる殺人の目的の下に、兇器を隠し持って夜の巷《ちまた》をさまようだろうか。事実は、そればかりでなく、「ジャック」の行動のすべては、彼の犯罪が初めから緻密《ちみつ》な計画になるものであることをあますところなく明示している。前回にあげたセントラル・ニュース社に舞い込んだ、人血で書かれた“Jack the Ripper”の署名ある葉書と手紙を、何者
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