行してきていないとはかぎらない。しかし、「斬裂人《リッパア》ジャック」が狂人だったとしたら、この犯罪はもっと気まぐれであり、より非組織的でなければならない。それは、すこしでも精神異常者なら、たとえ犯跡は巧妙に晦《くら》ましても、なにかのことでいつかは尻尾を掴《つか》ませるはずである。もちろん一口に精神病といっても、幾多の類型と階梯《かいてい》があるが、種々な場合に現われた事実を総合すると、どうもこのジャックは、狂人どころか普通人、あるいはそれ以上の明識《レイション》あるものとしか思えないのだ。またかりに精神病者としても、彼はたくみにその病的特徴を隠していて、学術的に、はたしていかなる種類と程度の患者と認めていいのか、この点については専門家の意見が区々に別れて、ついに纏《まと》まるところを知らなかった。変態性欲者ちゅうの一種の色情倒錯《しきじょうとうさく》狂でかつ癲癇性激怒《てんかんせいげきど》の発作を併有《へいゆう》するものに活痰ネいと、一部の権威ある犯罪学者によって主張され、動機の説明としてはもっぱらこの説が行なわれた。精神病理学者として令名あるフォウブス・ウィンスロウ博士は、往訪の
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