としての価額を持っているとは、驚くべきことだが、事実である。しかし、この、「長い黒の外套《がいとう》」を着て闇黒《あんこく》に棲《す》む妖怪は、心願《しんがん》のようにその兇刃《きょうじん》を街路の売春婦にのみ限定して揮《ふる》ったのだ。子宮を奪うためならなにも売春婦にかぎったわけではなく、普通の婦人のほうがより[#「より」に傍点]健康な、より清潔な子宮をもっていて、商品としての目的にも適したはずだから、この子宮売買説は、「斬り裂くジャック」の場合当てはまらないといわなければならない。もっとも、未知の女に接近してこれを殺し、子宮を奪うためには、この種の女が一番早道だから、それで自然、とくに売春婦を選んだような観を呈《てい》したのだといえば、一応説明にならないことはないが、ジャックは、ただ相手の娼婦を殺しただけでは満足せず、あたかも報復の念|迸溢《ほういつ》して一寸刻《いっすんきざ》みにしなければあきたらないかのように、生の去ったのちの肉塊にさえ、その情欲の赴《おもむ》[#ルビの「おもむ」は底本では「おも」と誤植]くままに歓《かん》を尽してひそかに快を行《や》っているのだ。ことに前掲ドル
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