三十日土曜日の夜からわずかに二日しか経過していない。月曜日のことだ。
 正午近くだった。パッカアは、ふたたび先夜の男が自分の果物店の前を通行しつつあるのを認めたのだ。
 白昼である。自分の証言が口火となって、その男こそ「斬り裂くジャック」に相違ないといっそう騒然と大緊張をきたしている最中だ。ことに、あれほど彼の網膜に灼《や》きついた映像に見誤りがあるはずはない。なによりもその「異様に長い黒の外套《がいとう》」が眼印《めじる》しとなって、パッカアは一眼でそれ[#「それ」に傍点]と判別した。今度は、正午にまもないころだったと自分でも言っている。バアナア街は細民《さいみん》区のイースト・エンドでもちょっとした商店街の形態を備えていて、古風な狭い往来に織るような人通りが溢《あふ》れている。ふたたび言う。白昼である。パッカアもなにも怖がることはないはずだ。なぜ彼は、男を見かけると同時に店を走り出て、大声をあげて近隣の者や通行人の助力を求め、とにかくその男を包囲しておいて警官の出張を待たなかったか――つぎは、この点に関して、パッカアが係官の前で陳述している彼自身の言葉だ。
「私は、客のない時は、切
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