真面目に唱道《しょうどう》されたものである。これでみても、いかに全事件が怪奇をきわめ、犯人「斬裂人《リッパア》のジャック」の行動がまったく探偵小説的に神出鬼没《しんしゅつきぼつ》そのものであったかが推測されよう。
狭い区域内で、連続的に街上で辻君《つじぎみ》を虐殺《ぎゃくさつ》という言葉は足《た》らない。その屍《し》体の状態は、いちいち重要な犯行とともにあとで説明するが、検屍の医師が正視に耐えないくらいじつに酸鼻《さんび》をきわめたもので、とうてい普通の神経機能所有者の所業《しょぎょう》とは思考されない。その、いわば常人でない犯人が、これほどたくみに尻尾をつかませないのである。精神病者はもちろん、すこしでも特異性の見える人間なら、この際すくなくとも近所の評判に上って、とうに密偵の耳にはいっていなければならないはずだ。ことに細民《さいみん》街の特徴として、隣近所はすべて開放的に交渉しあっている。そのどこかに一つでも「見慣れぬ顔」が潜在しているとしたら、それは早晩だれかの好奇眼にふれてなんらかの形でせめて居酒屋《コウナア・バア》会議――日本なら井戸端会議というところだが、英国では、ことに
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