が、その結末に待っているものは、いつもかならず違算と失望だった。この怪異な狂鬼《モンスター》が住んでいるかもしれないと思われる町は、片っ端から戸別に家宅捜索した。こうしていつしか、人狩りの網は自然と縮まっていた。事実、一度ジャックは現実に目撃され、会話を交《かわ》し、しかも多分の疑惑をもって仔細《しさい》に観察されている――が、悪運はつねに彼の上にあった。苦心|惨澹《さんたん》して集めた手がかりと報道の上に立っても、ついに彼の正体と所在へは法の手が届かなかったのだ。それもけっして広い区域ではない。この一町内の住民の一人がたしかにそれであるとまでわかっていても、ようするにそこで、神秘の壁が犯人を庇《かば》って、すべての探偵を嘲笑しているのだった。迷信的な人々のあいだには、早くもジャックに超自然的属性を与えて説明し去るものさえ出てきた。曰《いわ》く、この犯人は喰屍鬼《ゴウル》か吸血鳥か、とにかく、人間の眼を触れずに自在に往来す驕A他界の変怪《へんげ》であろうと。この中世紀めいた物語説は、いまでこそだれでも一笑に付するが、あの恐怖と秘異《ひい》感の最中には、冗談どころか、一部の人々によって大
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