ね》じ曲げるために、故意にそういう書き方をしたものと見ることもできないわけはないが、とうてい外国人――正規の英語の教養があればあるほど――の手に成った文面とは首肯《しゅこう》されないし、またいかに狂人であっても、医者ならばあれほど無学な手紙は書かない、いや、いくら書こうと努力してもけっして書けないに相違ない。ことに驚くべき一事は、新聞社へきた血書の葉書が、つぎの「ジャック」の犯行時日を予言して、みごとに適中していることである。十一月九日と葉書にあるその日に、スピタルフィルド区ドルセット街ミラア・コウトで、ケリイこと別名ワッツが殺された。これもあるいは、たんにその葉書を投じた悪戯《いたずら》者のでたらめが偶然当っただけのことかもしれないが、あのグルストン街の壁の字さえ残っていたら、両者の筆蹟を比較研究することによって、葉書の真偽《しんぎ》を鑑定することは容易だったのである。
この、世界犯罪史上にもほかに類のない兇悪不可思議な人怪《じんかい》――彼を取り巻く闇黒《あんこく》の恐怖と戦慄《せんりつ》すべき神秘、それらはもう、いまとなっては闡明《せんめい》のしようがないのだ。「斬裂人《リッ
前へ
次へ
全59ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
牧 逸馬 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング