とに除かれてあったが、この器官を摘出することは、外科学上至難の業《わざ》とみなされていて、それによほどの実際的手腕を必要とする。これらの諸点を帰結して、モスコーの犯人と同一であるか否かはともかく、この「ジャック」なる人物も狂医師の類《たぐい》ではあるまいかという当然の結論が生まれ、それが最高の権威をもって警視庁内外の専門家を風靡《ふうび》したのだが、その問題の腎臓は該事件の二日後、新聞紙で綺麗《きれい》に包装して小包郵便で警視庁捜査課に配達された。付手紙はなく、ただ上包みの紙に例によって血の指紋が押してあるだけで、いささか注意する必要を感じたものか、署名もなかった。
 しかし、セントラル・ニュース社に宛《あ》てた通信を犯人から出たものと仮定すれば、このロシア渡来の狂医師説はただちに粉砕されなければならない。なぜならば、その文章が、まるでアメリカ人の書きそうな俗語の英語で、けっして外国人の綴《つづ》ったものとは思考されないからである。文句は実にきびきび[#「きびきび」に傍点]して、下等な言葉ながらに、いや、下等な言葉なればこそ、いっそう効果的な表現に成功していた。これは、捜査の方向を捻《
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