判明し、同地の癲狂院《てんきょういん》に収容された。ところが、その春病院を脱走して、爾来《じらい》ゆくえ不明になっているというのである。この狂人はもとそうとうな外科医で、英国に留学していたこともあるから、ことによると、逃走後ひそかにロンドンへ潜入したのかもしれない。人相書も付随しているので、一時警視庁は、それに該当《がいとう》する人物の探査に全力を傾注《けいちゅう》した。モスコーの犯人の動機は、宗教上の狂信的な妄執《もうしゅう》からだった。すなわち彼は、こういう方法で殺害されることによってのみ、この種の穢《けが》れた女は天国の門を潜《くぐ》り得ると信じ、つまり済度《さいど》のために殺しまわったのだった。宗教的迷執|云々《うんぬん》は第二にしても、いまロンドンを震愕《しんがく》せしめている「斬裂人《リッパア》のジャック」が、かなり的確な解剖学的知識の所有主であり、また経験ある執刀《しっとう》家であることは疑いをいれない。彼は確実に子宮の位置を知り、かつ、いかにしてそれを傷つけずに摘出《てきしゅつ》するか、その最善方法をも専門的に心得ていた。バックス・ロウ街の屍《し》体からは左の腎臓がみご
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